子どもの様子を見ていると、「どうしてこの行動が起きるのだろう」と考える場面があります。行動だけを取り出して注意すると、家庭・園・学校・支援の場で対応がばらばらになったり、本人が困っていることを見落としたりすることがあります。
そんなときは、行動の前後を短く記録してみましょう。この記事では、直前・行動・直後を整理するABC観察を、支援を考えるためのメモとして使う方法を紹介します。サイトのABC観察メモも、この整理に使える空欄の資料です。ABCは診断のための検査ではありません。観察した事実と仮説を分け、子どもと一緒に次の小さな工夫を考えるための道具です。
ABC観察は、行動の前後を3つに分ける方法
ABCのA・B・Cは、次の3つを表します。難しい用語を覚えるより、「その前に何があったか」「何が見えたか」「その後に何が変わったか」を順番に見ることが大切です。
| 欄 | 書くこと |
|---|---|
| A:直前 | 行動の直前の出来事や声かけ。例:制作中に「片付けて」と伝えた。 |
| B:行動 | 見えた・聞こえたこと。例:机を3回たたき、「まだ」と言った。 |
| C:直後 | 周囲の対応や活動の変化。例:大人が片付けを止め、本人は2分休んだ。 |
「ふざけた」「わがままだった」「やる気がない」といった評価語は、Bの欄にそのまま書かないようにします。評価は人によって意味が変わります。「視線をそらした」「教材を閉じた」「声を出した」のように、別の人が読んでも同じ場面を思い浮かべられる言葉に置き換えます。
睡眠、空腹、体調、前の活動などは、行動に影響する可能性がある背景情報です。行動の直前に起きた出来事と混ぜず、必要な範囲で別の欄に残します。背景情報だけから本人の気持ちや原因を決めないことも大切です。
この記録から「見通しが分かりにくかったのかもしれない」「休憩を伝える方法がなかったのかもしれない」と考えることがあります。これは仮説です。1回の記録だけで原因や本人の気持ちを決めず、本人の言葉、家庭や園・学校での様子、支援者の見立てを合わせて確かめます。
神奈川県立総合教育センターのケース会議資料では、ABC分析の記録を、A=問題行動に先行して起きたことやきっかけ、B=起きた行動、C=行動の結果や周囲の対応、と説明しています。ここでいうABCは、行動を診断するためではなく、次の支援を考えるための整理です。
記録を始める前に、見る場面を小さく決める
最初から一日中の行動を記録しようとすると、書く人の負担が増え、本人が参加する支援から離れやすくなります。まずは「片付けから次の活動」「登園後の支度」「宿題を始めるとき」など、ひとつの場面に絞ります。
- どの場面を見たいかを、本人・家族・支援者で共有する。
- Bの欄に書く行動を、見える形の言葉で1つか2つ決める。
- 危険があるときは記録を止め、安全を確保し、近くの大人に助けを求める。
- 記録を誰が見て、いつ振り返るかを決める。
国立特別支援教育総合研究所の研修実施ガイドも、アセスメント(情報を集め、支援を考えるための整理)について、情報収集や行動観察だけでなく、本人・保護者への面接を含めています。記録用紙を埋めることより、本人と周囲の情報を合わせて支援に生かすことが目的です。
ABC観察メモの書き方:事実から次の工夫へ
1. 落ち着いた後に、短く書く
その場で書けないときは、時刻と場面だけをメモして、落ち着いてから思い出せる範囲を記入します。Aには活動名や声かけ、場所、予定変更を書きます。Bには、見えた・聞こえた行動を書きます。Cには、周囲の反応と、活動や休憩などの変化を書きます。
2. 事実と仮説を別の行にする
たとえば「先生が『片付けて』と言った。本人は教材を閉じ、机をたたいた。先生は片付けを止めた」は事実です。「終わりが分からず、まだ続けたいことを伝えたかったのかもしれない」は仮説です。仮説には「かもしれない」と付け、次に確かめる方法を一緒に書きます。
3. 同じ場面を見比べる
記録が数回たまったら、AとCに同じ特徴がないかを見ます。時間帯、要求の長さ、音や人の多さ、見通しの伝え方、休憩の有無などです。似た特徴があっても、すぐに原因と決めません。「次は予告を入れてみる」「選択肢を2つにする」のように、試す変更をひとつ選び、その後の様子を見ます。
4. 本人が参加できる方法を選ぶ
言葉で説明する、指さす、絵を選ぶ、あとで伝えるなど、本人が参加しやすい方法を選びます。サイトの本人ときめるメモは、本人の言葉と支援者の観察を分け、次の小さな工夫を整理する資料です。「答えない」「まだ分からない」「あとで話す」という選択も残しておくと、話すことを急がずに済みます。
具体例:切り替えの場面で机をたたくとき
ここでは、特定の子どもの体験ではなく、記録の書き方を説明するための一般的な例を使います。行動の意味は子どもによって異なるため、この例をそのまま当てはめません。
A:直前
記録:制作中に、予告なしで片付けと次の活動を伝えた。周囲はにぎやかだった。
確認すること:終わりや次の活動が見えにくかった可能性。音や人の多さも確認する。
B:行動
記録:教材を閉じ、机を3回たたき、「まだ」と言った。
確認すること:評価語を使わず、見えた行動と本人の言葉を書く。
C:直後
記録:大人が片付けを止め、本人は2分休んだ。その後、別の大人と片付けた。
確認すること:要求が止まったこと、休憩、大人の交代を分けて見る。
次に試す変更は、たとえば「あと5分」の予告を入れ、いまの活動と次の活動を大きく示すことです。片付ける物を2つから選べるようにしたり、「手伝って」「休みたい」を指させるカードを用意したりする方法もあります。どれが合うかは、本人の読みやすさ、好み、場面の安全を確かめながら決めます。
生活の手順そのものが分かりにくそうなときは、せいかつ手順チェックで手順と必要な手助け・休憩を一緒に確認できます。予定や切り替えを支える資料と組み合わせる場合も、最初からたくさん提示せず、本人が使いやすい量から始めます。
チームで振り返るときの短い話し合いの進め方
家庭、園・学校、支援事業所で見方が違うときは、記録を責める材料にしないことを先に確認します。次の順番なら、短い時間でも話し合いやすくなります。
- 事実を読む:評価や推測をいったん外し、A・B・Cに何が書かれているかを確認する。
- 本人の情報を足す:本人が言ったこと、選んだこと、避けたいことを確認する。保護者から見た家庭での様子も聴く。
- 仮説を一つ選ぶ:環境、伝え方、課題の量、休憩、感覚面など、次に確かめたい視点を一つに絞る。
- 変更を一つ試す:予告、選択肢、手順の分割、休憩の伝え方などから、担当者と方法を決める。
- 見る指標を決める:行動の回数だけでなく、助けを伝えられたか、活動に戻れたか、本人が選べたかも確認する。
話し合いの結果は、支援の振り返りシートで本人の意向、環境、支援者の関わりに分けて残せます。家庭と園・学校で同じ記録をそのまま共有できない場合は、所属先のルールに沿って、必要な情報だけを要約します。
うまくいかないときに見直すポイント
- 行動の後だけ記録している:Aの予告、要求、場所、音などが抜けると、変更の手がかりが見えにくくなります。体調・睡眠などは背景情報として別に残します。
- 回数を評価にしている:減ったかどうかだけでなく、困りごとを伝える別の方法が増えたか、安心して過ごせたかを見ます。
- 変更を一度に重ねている:何を試した結果か分からなくなるため、まず一つを小さく試します。
- 本人が落ち着いていないときに聞き取る:その場で説明を求めず、指さしや後からの確認など、本人が参加しやすい方法を選びます。
- 記録を個人情報のまま広げている:氏名、住所、診断名、健康情報、支援記録は、サイトのWebツールやAIに入力せず、所属先の規程に沿って管理します。
こども家庭庁の児童発達支援ガイドライン概要版は、子どもや家族の意向を聴き、環境や意思疎通のバリアを検討し、支援に関わる人が情報を共有して見直す流れを示しています。ABC観察メモも、行動を子どもの性格で説明するためではなく、環境と関わり方をチームで調整するために使います。
まとめ:記録は、子どもと支援をつなぐ短いメモ
ABC観察では、直前(A)、見えた・聞こえた行動(B)、直後の変化(C)を分けて書きます。事実と仮説を分け、本人の言葉を加え、次に試す変更を一つに絞ると、家庭・園・学校・支援の場で話し合いやすくなります。
まずは一つの場面を選び、短い記録を一枚だけ作ってみてください。合わない方法は止めたり変えたりしながら、子どもと一緒に「どうすれば伝わりやすいか」「どんな環境なら参加しやすいか」を探していきましょう。
参考資料
- 神奈川県立総合教育センター「はじめよう ケース会議Q&A」(冊子19ページのABC分析)
- こども家庭庁「児童発達支援ガイドライン(令和6年7月)概要」
- 国立特別支援教育総合研究所「教育・福祉連携推進のための研修実施ガイド」
記録の解釈や支援の判断に迷うときは、学校・園や所属先の責任者、相談支援、医療など、状況に合う専門機関と一緒に考えましょう。参考資料の確認日:2026年10月15日。

コメント
コメント一覧 (1件)
[…] 行動の前後を整理するABCの観察を使う場合も、診断名をつけるためではありません。Aはその場の直前に起きた具体的な状況、Bは見えた行動、Cはその後に大人や環境がどう変わったかとして書きます。たとえば「9時20分、外遊び中止を口頭だけで伝えた」「予定表を押しのけて廊下へ出ようとした」「安全な部屋へ移り、いま・つぎカードを置いた」のように、観察できる言葉にします。ABCの見方は、既存のABC観察の記事も参照してください。 […]